「ハッピーエンドに殺されない」 このタイトルの絶妙さよ・・・過去のわたしに読ませたい


書籍名ハッピーエンドに殺されない
著者牧村朝子
出版
情報
青弓社 2017年
請求
記号
367.9/マ

まきむぅ、こと牧村朝子さん。
Twitter民(Twitterをヘヴィにやってる人間は自分たちのことをこう呼びます)
ならば見たことがあるかもしれません。

「女と結婚した女だけど質問ある?」という「cakes」連載の書籍化です。
(cakesも少しマニアックですが、わたしは好きです)

まっさきに目次を読みます。
エッセイなので、順番よりも気になるタイトルから読みたいからです。

・異性とセックスしないと一人前になれない気がする
・ゲイやレズビアンが異性を好きになることもあるの?
・職場の飲み会がいやすぎて吐きそうです
・ゲームは役に立たない、と思っている君へ
・働かざる者も、別に食ってよくね
・パフォーマンスとしてのハピネス

…どれから読もうか迷います。
だってどのタイトルも、わたしのなかに「あるある」だから。

実は、もっとパワーワードなタイトルを先に読んだのですが
これはセンターの書籍紹介記事ですので、ちょっとはばかられちゃいました。
ぜひ手にとってご覧になってみて欲しい本です。

ちょっとあけすけだけれど、地に足のついた、等身大の考え方が書かれています。
そして、わたしたちが、社会で直面する、ちょっとした嫌な場面への答えでもあります。

たとえば「女だから」と、職場の飲み会で「カレシいるの?どんな人?」と聞かれる。
そんな飲み会に行きたくなくて吐き気がする。
みなさん、どうしますか?

「えー、いい人いたら紹介してくださいね(ニコッ)」と「華麗にスルー」がキメられていますか?
わたしは、華麗にスルーしたあとに、どっと疲れていました。

そんな小さなモヤっとしたことを
この本では、一つずつ、バッサリと切り捨ててくれます。

職場の飲み会の話は
「やばいですねその飲み会。すごい。私、行ってないのに帰りたいもん。」(バッサリ)

同時に、そんなシンプルなことも、時と場所によって一切許されない社会の仕組みに気づきました。
少し気持ちがラクになりました。

もしかしたら、「カレシいるの?」の上司には、読んでも、わからない本かもしれません。
いつの時代も、踏みにじる側の人間は、踏みにじった事実にすら気がつかないものだからです。

いろんな場所で出会う、ちょっとした嫌なことを伝えないで済ます「華麗にスルー」という処世術。
相手の気分を害することなく、その場を終わらせることができます。
でも、それを自分の中でうまく処理できないと「泣き寝入り」となります。

相手は、だいたい、そのままです。周囲を踏みにじり続けます。

また誰かが「華麗にスルー」をキメたり、失敗して「泣き寝入り」したりするでしょう。
スルーしてきた周囲は「自分もそうしたから、あなたもそうするべき」と知らんぷりしています。
そうすることで、誰かを踏みにじっていることには気がつきません。

伝えないでいると社会は変わらない。

この本には、こうも書いてあります。
「いやだと思ったことは、いやなまま放置すれば負の遺産ですが改善点に気づけたと思えば財産です。」

タイトルは、結婚して幸せに暮らしましたとさ、と終わりにされたくない、
ということからつけられたそうです。

誰もが、テンプレートな幸せを信じ込んでしまって「自分の幸せ」を見つけられないまま終わってほしくないから。

牧村さんが、「同性婚した=ハッピーエンドでしょ?」というこの社会からの圧で感じた
さまざまなことに真摯に向き合ってきたからこその言葉だと思いました。

本文中にはLGBTの考え方や、これまでの歴史、性的嗜好と性的指向の違いって?とか
人権、差別、自分らしさ、などダイバーシティを理解するための基本的な知識が、さりげなく事例を加えて盛り込まれています。

どれも、実体験や読者からの相談にあわせて、その都度、出てきます。
自分の生活に引き寄せながら考えられて、わかりやすかったです。

10年前のわたしに読ませたい。
きっと違った10年にできていたと思うからです。

でもこの先の10年は、自分の幸せをもっと大切にできると思います。

S.F