自己責任社会の歩き方 生きるに値する世界のために

書籍名自己責任社会の歩き方 生きるに値する世界のために
著者雨宮 処凛
出版
情報
七つ森書館 2017年
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記号
304/ア

第一章は、喉を締めつけられながら読んだ。「踏みにじられるいのち」と題したこの章では、相模原障害者施設殺傷事件、小田原市役所「生活保護なめんな」ジャンパー問題、秋葉原事件の犯人の弟の自殺、電通過労死事件などをとりあげ、事件と社会構造の関わりを書いている。どの事件も、過労・社会的圧力・社会格差などに追いつめられた人々が、さらに弱い立場の人々を追いつめることで自分の苦しみを誤魔化そうとした結果起きてしまった出来事のように思った。

苦しいなら「苦しい」と声を上げてその苦しみを解消するために助けを求めればいいのにそうできないのは、世の中に蔓延する「自己責任論」のせいだろうか。自己責任なのだからこうなったのは自分のせい、助けてくれる人などいない…と。

しかしそんな世の中でも「これはいかん」と立ち上がる人がいる。「宮城県父子の会」代表の村上吉宣さんだ。自らも母子家庭で育ち、二人の子を持つシングルファザーの村上さんは、母子世帯に比べなんの経済支援も受けられない父子世帯に違和感を持ち、自ら団体を立ち上げ運動の先頭に立ち、法を変えていく。いっそ爽快と思える村上さんの快進撃は是非本書を読んで頂きたい。

二章以降にも自分が感じている「これおかしくないか?」という違和感を元に行動を起こした人々が登場する。

反戦デモのために自前で「戦車風」に改造した車を破壊する人たち。
戦争をしない・させないために連帯するアジア各国の人々。
徴兵拒否のためフランスに亡命した韓国人男性。
過酷な労働環境に「サバイヴなんてしたくない、人間らしく生きたい」と街頭で声を上げる若者たち。

どの人も「おかしい」「このままじゃヤバイ」と行動を起こした人たちだ。彼らに共通するのは「人間らしく生きたい」という願いではないだろうか。特に強烈だったのはさいたま市の知的障害者たちで組まれたバンド「スーパー猛毒ちんどん」のパフォーマンス。「障害者は勇気を与えるために生きてるわけじゃない」と歌い、踊り、楽器をかき鳴らす彼らの姿は確かに猛毒だけれど、紙面からでも強烈な命の強さを感じた。

本書では、いま日本が抱えている様々な社会問題を取り上げている。日本はこんなに生きづらい国になったのかとしんどくもなるけれど、それ以上に著者の雨宮さんが出会ってきた、「違和感」に抵抗し、行動する人々の発する希望の匂いに、生きる気力が湧いてくる。そして思った。自分は、端から見れば明らかな「異常事態」を、ちゃんと「おかしい」と感じられているだろうかと。
読み手に、希望と問いかけを残す1冊だった。

(K・H)