書籍名 | うめももさくら |
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著者 | 石田 香織 |
出版情報 | 朝日新聞出版 2020年 |
請求記号 | 913/イ |
運送会社勤務の主人公「ママ」の、無限ループとも言えそうな仕事と育児、それを取り巻く環境のごたごたにもめげずに乗り切ろうと気合を入れて生きていく日常が、ユーモアも交えて描かれています。
いきつけの居酒屋で知り合った、無職でテント住まいのスナフキン佐々木くんは、のちに生まれる「うめ」と「もも」の父親です。「ママ」はその身の上話から悪い印象を受けたものの、居酒屋の隅の席で涙をぬぐう姿(実際はドライアイ)に同情してしまい、親密になり、やがて彼は「ママ」の家に転がり込んできます。そして、同僚の池ちゃんや、自分勝手な実の母親と、そんな母親をユーモアで包んでいた回想シーンの亡き父親、仕事場の上司や他同僚とのやりとりで話が進んでいきます。
共働きの生活から夫の失踪・離婚を経て、「ママ」自身が「自転車操業」と例えるように、給料日前になるとキャッシングに頼らなければならない程ぎりぎりの生活を送り、電気を止められた暗い部屋の外で、子どもが自分の帰りを待っているという場面では、「ママ」の胸の痛みが伝わってきます。
「シングルマザーでも、子どもたちに貧しい思いやさみしい思いをさせない。それは親の責任だ」と思っても、くたくたになるまで働き、してあげたいことがたくさんあってもできない現実があります。
子どもたちにはたくましく育ってほしいと願う一方で、申し訳ない気持ちを一身に背負い、「助けて」と声を上げられない「ママ」がここにいます。
また生活に困窮しながらも、自身の父親のように苦しみや痛みをどこかユーモアで包む場面や、自分勝手な振る舞いをする実の母親に思いを伝える場面などから見えてくる親子の関係があります。
このような場面も含めて、ぜひ皆さんにも読んで欲しいと思います。
K.K