トランス男性によるトランスジェンダー男性学

トランス男性によるトランスジェンダー男性学
書籍名トランス男性によるトランスジェンダー男性学
著者周司 あきら
出版情報大月書店 2021年
請求記号367.9/シ

以前、社会的には女性として生活していた著者は、性同一性障害という診断を受け、身体的に男性になるための治療をしてきました。トランス男性は、男性として生活することを望み性別移行しますが、生きやすさとともに戸惑いや孤独を抱えます。「私と同じようなトランス男性はいったいどこにいるのか。」トランス男性の著者が男性学の中のトランス男性の居場所を探します。

トランス男性は男性の一員として生活しており、男性社会の中には、つねにトランス男性がいます。しかし、男性として生活していく中で、気持ちは女性ではなかったものの女性体験を持つトランス男性は、シス男性中心に維持されてきた社会に大きな葛藤を持ちます。女性扱いをされて不利益を得てきた経験があることから、トランス男性は内心フェミニズムの支持者であることが多いということです。シス男性にしか見えなくなると、フェミニズム内で当事者の顔をして関わっていくのであれば、カミングアウトが求められます。トランス男性はフェミニズムに対してきわめて関りづらくなっていくのです。

トランス男性が主張しない背景として、著者は二つ検討しています。まず一つ目は、男性社会に多少の居づらさや不都合があるものの、シス男性に同化する方が生きやすい場合があるということです。二つ目は、社会的に特権を得ている側の「男性」として認知されるようになると、自分の弱みをさらけ出すことは誰にも歓迎されないことだと思い込み、男性であることで実感する苦悩は言いづらくなることがあるということです。

境遇が女性から男性になることでトランス男性の孤独は生まれました。著者は、広義の「男性の生きづらさ」に加えて、トランス男性がトランス男性であることの孤独もあると告白しています。しかし、トランス男性が孤独を訴えようとしても、かつて同性のようなフレンドリーさを兼ね備えていたかもしれない女性は今や遠くの存在であり、また、男性とのあいだにはトランスジェンダーであるがゆえの悩みは共有できません。

性別移行し、その先を暮らしていくためには、男性としての生き方を探す必要がありました。しかし、著者が初めて男性学の本を手に取ったとき、あまりにも共感できず驚いたことに加え、自分のような「男性」の姿はありませんでした。本書のテーマは、「トランス男性」×「男性学」です。著者は、トランス男性の主体性を取り戻すためには、「トランス男性は(こうした経験をもち、現に生きている)男性です」と肯定形で示す必要があるのではないかと考え、相手からの無理解や差別に対して、先手を打つ必要性を感じています。また、ジェンダー学においては、トランス男性を男性学に持ち込むことがそうしたトランス男性の主体性を保持するために有効であり、今後必要になっていくのではと述べています。

K.H