日本のふしぎな夫婦同姓

日本のふしぎな夫婦同姓
書籍名日本のふしぎな夫婦同姓 社会学者、妻の姓を選ぶ
著者中井 治郎
出版情報PHP研究所 2021年
請求記号 324 /ナ

筆者は大学で教鞭を取り、観光社会学を専門としている社会学者です。
ジェンダーやフェミニズムに詳しいわけではなく、自身が結婚を機に妻の姓に変え、姓を変えるのはそれほど単純ではないと身をもって体験したことを男性の視点から書いています。

現在、夫婦同姓にしないといけないと強制されている国は世界で日本だけです。
約96%の妻が夫の姓に変えており、筆者は残りの4%に入る選択をしました。
それはただ自分が姓を変えるだけという何気ない気持ちでした。

身分証明書やクレジットカード、職場の書類もすべて変更しなければならないことはもちろん、自分が姓を変えたと言うと婿入り、婿養子と言われました。
本人は一切そんな意識はなかったのに、周囲に言われて妻の実家をお墓まで丸ごと引き受けるかのように思われました。
また、結婚して姓を変えなくていいのは男の特権なのになぜ変えるのかとも言われたそうです。
妻の姓に変えたことで自分は男だったんだ、と「男らしさ」を認識させられたと述べています。

選択的夫婦別姓制度は、強制的な同姓や別姓ではなく選択できるように変更するだけなのに、実現になぜこれほど時間がかかるのでしょうか。
それについて、日本人は自ら選び取らなければならなくなることが怖いのかもしれない、と述べています。
それまでのしがらみはある意味、個人をさまざまなリスクから守っており、しがらみがなくなると無防備に社会に放出される感覚ができるのではないかということです。
また、対談で選択的夫婦別姓制度について活動されている青野 慶久さんは、夫婦同姓で困っている人がいても「国の制度だから従いなさい」という考え方があるのではないかと述べています。

選択的夫婦別姓については男女平等やフェミニズムからの視点で女性が多く声を上げていました。
しかし本書は男性が姓を変えるという実体験から書かれており、フェミニズムという観点だけでなく、姓を変えることはどれほど面倒で厄介で喪失感や社会の目も気にしながら生きていかなければならないかを述べています。
先のブログに「夫婦別姓 ー家族と多様性の各国事情」という本も紹介しています。
合わせて読んでみるといかに日本の夫婦同姓という制度は時代遅れかということがわかります。

R.K